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2012年 01月 14日
(採点はあくまで私の主観に基づいていますので、私のレベルが低いせいで理解が及ばす、伸びない場合も多々ありますので悪しからず)
12月に読んだ本 パンダの親指(上)(下) スティーヴン・ジェイ・グールド 82点 進化生物学者であり科学史家でもある著者による、ダーウィンの進化論の再考とその周辺で起こった論争や事件を綴った本。 高校の生物の時間に「個体発生は系統発生を繰り返す」と習ったが、今ではその論も古いのだそうだ。 世に多くの誤解を招いている「ダーウィンの進化論」を著者なりに解説し、その正しさと奥深さを説いているが、ウィキペディアによると、「利己的な遺伝子」の著者であり正当ダーウィニズムを唱えているリチャード・ドーキンスに対して、著者は修正ダーウィニズムを唱え、激しい論争を繰り広げたそうだ。 ドーキンスの著作は読んだ事がないし、門外漢には両者の違いは良くわからない。 この本ではそういった専門的な知見だけでなく、化石資料の捏造を専門化がこぞって受け入れてしまったという、一般人にも興味が持てる事件などにも触れていて、そのあたりは面白かった。 日本でもあった遺跡の捏造事件を思い出したが、どこの国にも功名心に駆られる人間がいるだけでなく、専門家の間でもそれがまかり通ってしまうという点には少なからぬ心理的な共通点があるように思えて興味深かった。 科学者には文学にも精通して文学者顔負けの文章を書く人も多く見受けられるが、著者もその一人であるようだ。 ただ、文章が懲りすぎで却って判りにくく、何度も読み返さなければならない箇所が多かったのにはちょっと閉口した。 夜の来訪者 J・B・プリーストリー 80点 1946年に書かれたミステリータッチの戯曲で、過去に何度も上演され、映画化もされたそうだ。 書かれたのは46年だが舞台設定は1912年で、ある上流家庭の欺瞞が、突如現れた警部によって次々と暴かれていく。 そして最後にお決まりのどんでん返しが。 ありえへん展開にぐいぐい引き込まれ、長さも中篇程度なのであっという間に読み終わる。 実際になんらかの犯罪が行われるわけではなく、ミステリーというよりどちらかと言うと20世紀初頭のアメリカ社会を風刺するような告発するような内容になっている。 長さが短いだけに疑問に思う点が解き明かされていない点不満がないでもないが、ちょっと時間があるので何かを読みたい、と言うような時の読み物としては最適。 寄宿生テルレスの混乱 ローベルト・ムージル 80点 高校生の時、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」を読んで途中で挫折した。 「悩みがないのが悩み」みたいなおバカな高校生だった当時の私には高尚過ぎた。仕方ない。 この本を読み始めたときそれを思い出したが、プラトニックなピュアさがあったウェルテルに比べテルレスの混乱の大きな原因の一つは正に若気の至りともいえる性衝動。それも異性のみならず同性に対しての。 そこでまたまた思い出したのが、寄宿生大学の同性愛を描いた「モーリス」 でもモーリスがその道をまっしぐらだったのに対して、テルレスはそれほど単純ではない。 思春期の男子が同性に対してこんな思いを抱く事が往々にしてあるのか、残念ながら私は良く知らない。 自分の周りでそのような事をカミングアウトした男子は誰もいなかった。 男子校ではありがちなのだろうか。 尤も、この小説はそういった今はやりのいわゆるBLについてのみ書かれているわけではなく、流石にドイツ語圏の少年らしく、もっと知的な部分での悩みも深い。 ただ、すさまじいいじめの描写などもあり、100年近く前に書かれた小説であるにもかかわらず、そういったところはウェルテルより生々しく今日的だ。 (ウェルテルにだって今日的な所があるから、いまに至るまで読み継がれているのだろうが・・) 光文社の古典の新訳シリーズなので訳文も読みやすい。 海の都の物語(上)(下) 塩野七生 86点 戦禍を逃れてラグーン(潟)の上に都を造った黎明期から、ナポレオンの台頭によって滅亡するまでのヴェネツィアの1000年間を描いた歴史ノンフィクション。 現在は新潮社から6巻に分けた版が出版されているが、私は厚さにめげて長い間積読(つんどく)状態だった中公文庫版で読んだ。 資源に乏しく交易によって発展する様は、今の日本に重なる部分も多いが、交易には不可欠な外交手腕に関しては雲泥の差がある。 私はむしろ現在の韓国が想起された。 塩野さん独特の硬筆な筆致で、多くの資料から導き出される記述、とりわけ、軍事に関する記述は詳細を極め、とても女性作家が書いた書物とは思えない。 ただ、これは「チェーザレ・ボルジア、あるいは優雅なる冷酷」などでも感じられた事だけれど、対象に対する思い入れが強すぎて主観的な感が否めない。 おかげで私は、巷間ではそれほど評判の良くないチェーザレ・ボルジアのかっこ良さに、ポーっとなってしまった。 塩野さん自身もそれを意識してか、「歴史家から見たら~だろうけれど」、といった表現も少なからず見られる。 まあ、どんな出来事でも光の当て方によって違って見えるのは「羅生門」を見ればわかる。 でも、そういう点を差し引いて読めば、歴史好き、更にヨーロッパの歴史が好きな人にはとても面白い読み物だと思う。 バルカン半島が何故世界の火薬庫といわれているのか、などにも思いが至る。 塩野さんのヴェネツィアへの愛が溢れる一冊。 ※下記の広告はExciteの営業活動の一環として掲載されるもので、主催者が載せているものではありません 2011年 12月 31日
(採点はあくまで私の主観に基づいていますので、私のレベルが低いせいで理解が及ばす、伸びない場合も多々ありますので悪しからず)
12月に観た映画 黄色い星の子供たち フランス・ドイツ・ハンガリー 84点 第二次世界大戦中のフランス。ヴィシー政権の元でフランス政府と警察によって行われたユダヤ人迫害を描いた映画。 現在公開されている「サラの鍵」も同じテーマを扱っている。同じような映画が同時期に作られた訳に関しては、調べたけれど良くわからなかった。 第二次世界大戦中のフランスといったら、ナチスに対するレジスタンス運動が激しかった国という認識が強かったが、1942年、パリに住む10000人以上ものユダヤ人が一斉検挙され、ヴェル・ディブという競技場に収容された後ナチスに引き渡されるという事件があったらしい。 この事件に関しては、1995年シラク大統領がその責任に触れるまで、フランスでも知らない人が多かったそうだ。 当時から自由と人権を尊重する国というイメージがあったフランスでさえそのような事があり、しかもナチスではなくフランス人の警官によって収容者に暴力が加えられ、母親と子供が引き離され移送されたりするシーンもあり、ちょっとショックだった。 撮ったのは元ジャーナリストの女性監督ローズ・ボッシュ。 主演のメラニー・ロランはフランス人にとってはシビアな内容の本作の撮影中、ストレスのためヘルペスを発症したそうだ。 でも、自国の責任を世に問うこのような映画を撮ったという行為だけでも、賞賛に価するのではないだろうか。 日本やアメリカでも盛んに戦争映画は作られるが、他民族に与えた苦痛をこのような形で映画化した作品はあまり記憶にない。 実際には、この時収容所に送られた子供の中で生きて帰った子は一人もいないらしいのだが、映画の中では主人公の少年とその幼い弟が生きのびるのが、せめてもの救いだった。 小さな哲学者たち フランス 78点 フランスはドキュメンタリーが好きなお国柄らしく、特に子供に関するドキュメンタリーが評判を呼ぶことがしばしばあるようだ。流石英才教育の国。 この映画では、とある幼稚園で実験的に試みられた、3歳からの2年間に亘る哲学のクラスの様子を追っている。 「愛って何?」「人間と動物の違いは?」「貧乏な人がいるのはなぜ?」「自由ってどういう事?」など、先生が投げかける問いに、子供たちが自由に答えていく。 小さいうちから考えを言葉で述べる訓練がなされている様子は、日本の教育とはかなり違うと痛感させられた。 中には驚くような発言をする子供もいるが、大人が口にするような事を5歳の子供が口にしたからといって、大人と同じように理解しているわけではないだろう。 子供なりに咀嚼して話すという事は大切かもしれないが、ただ、参加している子が多い割には発言する子は大体同じで、全然喋らない子も少なからずいる。 大人の思惑が先行して、子供はさほど気乗りしていなさそうにも見えた。 もっと判り易い話題じゃなぜいけないのか、ちょっと疑問が沸いた。 あと、活発に発言するのが男女とも有色人種の子供たちで、白人の子が案外大人しいのが見ていて面白かった。 ユスフ3部作「卵」「ミルク」「蜂蜜」 トルコ・ドイツ 80点 ベルリン映画祭での金熊賞をはじめ、世界各国で多くの賞を受賞したトルコのセミフ・カプランオール監督の映画。 イスタンブールに住む詩人のユスフの生涯を、現在から過去へと辿る3部作。 アラブの映画によくある、極力エンターテイメント性を廃した、バックに音楽さえ流れない実に淡々とした映画。(たぶん予算がないせいもあると思うのだが・・) 第3作「蜂蜜」で、演技経験のない少年を主役に配している所もアラブの映画らしい。 こういった作品を面白いと感じるかどうかは人それぞれだろうけれど、私はアラブの映画は好きで割合良く観る。 地震があった日も、高田馬場の早稲田松竹でアラブの映画を観ていた。 この映画は時系列に辿れば、自然と共存しつつ貧しいながら親子で暮した少年時代、父を亡くし母と二人で生きた青年時代、そして詩人として成功し母と別れて町に住む主人公が、母の死の報に接して故郷に帰るまでを描いた、いわばある家族の記録であると共に、一人の少年の成長の記録となっている。 アラブというと乾いたイメージがあるが、「蜂蜜」で描かれるのは日本と変わらぬくらい豊かな森での親子の生活であり、そこで展開される日本の学校とは違った授業風景などが興味深く、私の大好きなイランの監督アッバス・キアロスタミの「友だちのうちはどこ?」などにも通じるところのある映画だった。 また、「卵」と「ミルク」に、ブルガリア映画「ソフィアの夜明け」にも出演していたオリビア・ハッセー似の超美形、サーデット・アクソイという女優さんが出演していたところも見所だった。 母なる証明 韓国 77点 映画館やDVDで何度も予告を見ていて、そこから受けた感じでは物凄くシリアスなドラマをイメージしていたのだが、そうでもなかった。 撮ったのは「グエムル」や「吠える犬は噛まない」のポン・ジュノ監督。 この監督の映画は上記の2作した見たことがないが、これらの映画に見られるユーモアが、今回の映画のようなシリアスなテーマの作品の中にも多々見られる。 イケメン俳優のウォン・ビンが、殺人罪で捕らえれらる息子を演じているのだが、どう見ても少し知的に問題があるように見え、ただそれがそういった演出なのか、ウィン・ビンの演技が大げさなせいなのか、はたまた本当に知的に障害がある設定なのか判然としない。 終盤、思いがけない展開になるあたりからぐっとシリアス度が増し、「国民の母」といわれる主演のキム・ヘジャの熱演が冴える。 なんだかなげやりなようで執念深く、乱暴なようで繊細な所もあり、ユーモラスなようでシリアス、そんな印象の映画だった。 SOMRWHERE アメリカ 80点 カンヌ映画祭で審査委員長のショーン・ペンの御眼鏡に適ってパルムドールを受賞したソフィア・コッポラの映画。 私にはこの映画は「ロスト・イン・トランスレーション」と対を成す映画に思えた。 主人公は「ロスト・・」同様ハリウッドの映画俳優なのだが、「ロスト・・」でスカーレット・ヨハンソンが演じた役回りを、今回は主人公の娘が担っている。 その娘を演じたダコタ・ファニングの妹のエル・ファニングの瑞々しい演技が、「ロスト・・」のスカーレット同様非常に印象的だった。 批評家からガールズムービーなる冠を頂戴しているソフィア・コッポラの映画だけれど、不評だった前作「マリー・アントワネット」も含め、私にはこの人の映画は一貫して、大勢の人々に囲まれながらも癒されることのない孤独を抱えた人間たちの物語に思える。 この映画や「ロスト・・」にも登場した中年の男性もさることながら、監督の分身とも思えるそれぞれの映画の若い女性たちも例外ではない。 ただ、今回の映画には「ロスト・・」の時のような秀逸なオチがなく、なんだか抽象的なラストシーンになってしまったところで「ロスト・・」とは大きく評価が分かれてしまった。 モールス アメリカ 79点 各国で評判を呼んだスウェーデン映画「僕のエリ、200歳の少女」のハリウッド・リメイク。 リメイクというと元の映画が何かわからないくらい内容が変わってしまっている作品も多々あるが、最近はそういう作り方をすると批判が多いのか、オリジナルに忠実なつくりになっている映画が多い。この映画も大筋はオリジナル通り。だったらわざわざ作り直さなくてもよいような気もするのだが・・。 ただ、以前このブログでも取り上げたカストラートの件や、近所のおじさんたちが絡むエピソードなどは割愛されていて、あくまで少年と少女のエピソードに重点が置かれている分、シンプルでよりエンターテイメント的になっている。 主演は、世紀末映画「ザ・ロード」でヴィゴ・モーテンセンの息子を演じた、コディ・シュミット・マクフィ。 ブロンドヘアが美しかったオリジナルの少年も印象的だったが、このコディという少年、最近現れた男の子役の中では、繊細な演技に関してはとにかく自然体でぴか一の上手さだと思う。 対するヴァンパイヤを演じたクロエ・グレース・モレッツ。 「キック・アス」で注目の存在になったクロエだけれど、今回の映画で各国で多くの賞を受賞したようだ。 でも、こういう感じの少女子役は、昔からハリウッドには多く現れる、いわゆる業界受けするタイプ。 私はむしろヴァンパイヤでありながらカストラートでもあるという難役に挑んだ、オリジナルの黒髪の少女リーナ・レアンデション のミステリアスな雰囲気に惹かれる。 エッセンシャル・キリング ポーランド・ノルウェー・アイルランド・ハンガリー 81点 「バッファロー66」が若者の間で爆発的にヒットしヴィンセント・ギャロが話題になっていた頃、品川の美術館で「ヴィンセント・ギャロ展」というのがあって、普段はあまり注目もされない小さな美術館に長蛇の列が出来たのだが、その後なんだか変わった映画を立て続けに撮ったせいか、若者の間のギャロ人気もあっという間に翳った。 爾来、私もギャロの出演作には苦手意識を持つようになって、今回の映画もどちらかというと怖いもの観たさみたいな感があった。 この映画でのギャロは、アフガンの逃亡兵を演じ、なんとひとこともセリフを喋らない。 撮ったのは「アンナと過ごした4日間」のポーランドの監督、イエジー・スコリモフスキ。 冒頭、アメリカ兵に捕らえられ、例のオレンジ色の囚人服を着せられ護送車に乗せられるあたりは、さながら「グアンタナモ、僕たちの見た真実」を思い起こさせるが、この映画はそういった社会派のドラマでは全くない。 厳寒の山中を逃げ惑うギャロの演技には鬼気迫るものがあり、見事ヴェネツィア国際映画祭で主演男優賞を獲得した。 さながらロードムービーのような展開の中、出会う人々とのエピソードはショッキングながらも身につまされるし、確かに、この映画でのギャロの演技と厳しい撮影環境の中で見せた俳優魂は凄いと思った。 加えて、ポーランドの美しくも厳しい自然をシャープに捉えたカメラワークや、雪の白に鮮血の赤といったコントラストの妙、それに被さる音響の効果も鮮烈で、高い芸術性を感じさせられた。 どこか無国籍なギャロの顔立ちが、この映画には良く似合った。 「エッセンシャル・キリング」と言う題名も、この映画の本質を言い当てて妙である。 プンミおじさんの森 イギリス・タイ・フランス・ドイツ・スペイン 79点 ティム・バートンが審査委員長を務めたカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した映画。 非常に淡々とした表現の中に、現実と幻想が交錯する、なんだか不思議な味わいの作品。 幻想的な作風はいかにもティム・バートンが好みそう。 カンヌ映画祭って、審査委員長の好みが影響するものらしい。 現実の中にさり気なく輪廻や前世の話が挿入される展開はいかにも仏教国らしいし、食卓に行方不明の猿の精霊に取り付かれた弟が毛むくじゃらの姿で現れたりするところはアニミズム的でもあるが、なんだかあまり違和感を感じないのは、森と共に生きる人々の土着的な生き様のせいだろうか。 もし日本で同様の作品を作ったら、きっともっと漫画っぽい作品になってしまうだろう。 タイに国際的な映画祭で初の栄冠をもたらした、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督(うわあっ、長い名前!!)の今後が楽しみ。 ヒア・アフター アメリカ 76点 この映画で何が驚いたかと言って、冒頭に街が津波に襲われるシーンと、その後の荒廃した様子があまりにもリアルで、こういったシーンが商業映画に挿入されているという事に関して、日本人としてはかなり複雑な心境に駆られた。 件のシーンは、香港が津波に襲われた時の映像をCG加工して作ったのだそうだ。 その津波で臨死体験をしたフランス人のニュースキャスターの女性、さらに死んでしまった双子の兄が忘れられない少年、それに霊能力のあるアメリカ人男性という三者三様に死後の世界と接点のある登場人物が、やがて運命的に出会っていく様子が、抑えた描写で描かれている。 監督のクリント・イーストウッドの最近作は、前作の「インビクタス」意外どれも皆「死」が重要なモチーフになっていて、監督自身が「死」に取り憑かれているのではないかと思えるほどだ。 この映画、「プンミおじさんの森」と同時に借りたのだが「プンミおじさん」が非常に土着的な色彩が強く、人々が自然体で「死後の世界」を受け入れているのに対し、こちらの映画で「死後の世界」を感じている人々は、それ故に周囲と隔離された特別な人々として描かれている。 私自身は「死んだらそれまでよ」と思っているので、格段にどちらの考え方に組するわけでもないが、映画としては「プンミおじさん」の方により癒しを感じた。 死後の世界と通じ合う二人の男女が、やがて出会って結ばれるというラストも、なんだかご都合主義的だと思えた。 永遠の僕たち アメリカ 79点 映画の中に、病に冒されて余命いくばくもない人間を登場させ、しかもそれが綺麗な女の子だったりするような設定で観客の情動に訴えようとするなんて、演出としてはあまりにも安易だと思うから、その手の映画はあまり観ないのだが、今回の作品は、監督が若い人の感性を表現したら右に出るものがいないと私が思っているガス・ヴァン・サントだし、主要な役柄で加瀬亮が出演しているようなので観てみた。 結論から言うと、交通事故で両親をなくした、あまりにも繊細で大人の階段を登ろうにもなかなか難しそうな青年と、余命3ヶ月の美少女の物語は、切なく美しくはあるものの、いかにガス・ヴァン・サントの手に掛かろうとやっぱりそれなりの映画にしかなっていないと思えた。 それに、いかに繊細だとはいえ、主人公の青年の行動はいかにも子供っぽ過ぎる。 ただ、日本兵の姿で幽霊として登場する加瀬亮が凄く自然にシーンに溶け込んでいるのには好感が持てたし、少女を演じるミア・ワシコウシュカが、ジーン・セバーグに匹敵するくらいショート・カットが似合う上、身につけているちょっとレトロなファッションが、シャネルの映画と比べても遜色ないくらいお洒落で似合っていて可愛かったのが見所だった。 後から解説を読んで知ったのだが、青年を演じているのはデニス・ホッパーの息子のヘンリー・ホッパー。 そういわれてみると、目元のあたりがお父さんの良く似ていたけれど、曲者俳優だったお父さんとはまた違った繊細な魅力がある。 この人も今後が楽しみ。 誰も知らない 日本 81点 ではない。知っている大人はいないわけではないが、見てみぬふり。あるいは子供の気持ちを尊重してという言い訳の元、何もしない。 途中までは凄く引き込まれたが、思いのほか上映時間が長いのと、終盤近くで起こる悲劇的な出来事の後に何が来るのかのヒントさえも与えられないで終わってしまう事に、なんとも割り切れない気持ちにさせられた。 大体、この映画のラストに悲劇は持ってきて欲しくなかった。 弔う事さえ自身の手のみで遂げてしまう子供たちの世界を表現したかったのかもしれないが、実際子供のみでそこまで出来るのか、そこに却って作り手の大人の思惑を感じてしまい、子供の世界を描いているようで、作っているのは結局大人といったいった気持ちにさせられる。 とかく人間関係が希薄といわれがちな都会の片隅で懸命に生きる子供たちの姿は見るだに心打たれるが、大人自身も余裕がない途上国のストリートチルドレンと同じ水準にまで生活が落ちていくといった展開が、いまの日本をリアルに表現しているといえるのだろうか。 日本の水準も最早そこまで落ちたという事か?それともこれはファンタジーなのか? ただ、監督の子供に対する眼差しの優しさとディテールに対する驚くほどのこだわりは感じた。 さらに、カンヌで最年少主演男優賞を受賞した柳楽優弥を始め、子供たちの演技は秀逸を通り越してあっけにとられるくらい素晴らしい。 それらの演技を引き出した監督の手腕は見事としかいいようがない。 子供たちを捨てる母親役に殆ど生活感のないYOUを持ってきたところにも、この監督のキャスティングセンスの良さを感じさせられた。 この映画に演技派女優を配したら浮くだけだろう。 そういう大人臭を廃したところにこの映画の持ち味があるのかもしれないが、ホームレス中学生ではないが、サバイバーとして生きる子供たちをモノクロームに描く事だけで終わってしまっている感が否めないのは、やはりなんとも物足りない。 今年はこれで終わりです。 本の採点は年が明けてから行いますのでよろしくお願いします。 今年もあと数十分ですが、皆様良いお年をお迎え下さい。 ※下記の広告はExciteの営業活動の一環として掲載されるもので、主催者が載せているものではありません 2011年 12月 27日
(採点はあくまで私の主観に基づいていますので、私のレベルが低いせいで理解が及ばす、伸びない場合も多々ありますので悪しからず)
11月に読んだ本 イグジステンズ クリストファー・プリースト 80点 1999年に公開されたデヴィッド・クローネンバーグ監督のオリジナル脚本映画のノヴェライズ。 書いたのは「逆転世界」や「奇術師」などを書いたSFファンタジー界の奇才クリストファー・プリースト。 ジュード・ロウ主演の映画は大分前に観ていて、爬虫類の内臓とか両生類の死体で作った銃とか、いわゆるクローネンバーグ的内臓感覚満載で、大いに気持ち悪かったことを読んでいて思い出した。 その他の細部は良く覚えていないのだが、小説は映画の内容をかなり忠実に表現しているようだ。 現実とゲーム内の非現実の世界の区別がつかないという設定や、ラストのどんでん返しなどはありがちなのだが、そこに独特のグロテスクさが加味されているところなども映画の表現を踏襲している。 映画のノヴェライズ作品というのはちょっと軽い読み物的な印象があるが、流石にプリーストが書いているだけあって、そんじょそこらのノヴェライズ作品とは一線を画す完成度の高さはあるように思った。 (とは言っても、映画化された小説というのはよく読むが、映画のノヴェライズ作品といのはあまり読んだことがないのだけれど) それにしても、プリーストがノヴェライズ作品を手がけるなんてちょっと意外だった。 流石に奇才通し、どこか通じる所があったのかもしれない。 遠い水平線 アントニオ・タブッキ 80点 エッセイストで翻訳家の須賀敦子さんの訳。 須賀さんのエッセイは大好きなのだけれど、須賀さんが何冊かの翻訳を手がけているタブッキの作品は、私にはいつも薄い印象しか残らない。 この作品も途中まではミステリーのようなのだが、起承転結の結がもやもやとしていて、どうもすっきりしない。 要するに、タブッキに普通の小説のような、ストーリーテリング的なものを求めてはダメらしい。 須賀さんは少女の頃から良く詩集を読んだ、とエッセイに書かれていたが、私は詩集は苦手だ。 タブッキの作品は文章自体が抽象的なわけではないのだけれど、書かれている内容は哲学的で抽象的だ。 具象ばかりの文章というのは退屈なもので、具象の中に抽象的な表現がちりばめられている作品は美しいと思うのだが、タブッキの作品は読み終わった途端にスーッと頭から消えて行ってしまう、そんな印象がある。 それでもユーザーレビューの評価は高いので、今度こそはと思ってトライするのだが、やっぱり・・・・。 フラット化する世界(上)(下) トーマス・フリードマン 90点 2006年にアメリカで出版されベストセラーになった本。 BRICSなる新興国の話題が盛んにニュースに取り上げられるようになってまだ数年しか経っていないと思うが、隣国中国はともかく、私のような経済音痴はインドの興隆が不思議でならなかった。 この本にはそのあたりの事情が実に明確に語られている。 流石にピューリッツァー賞を3度受賞した著者の本だけあって、語り口が明快でわかりやすい上、世界的な著名人へのインタビューなどが多数試みられていて、読んでいてなるほどと思わされる内容に満ちている。 ただ、これはあくまでアメリカ人に向けて書かれている書物なので、日本人としては納得のいかない記述も少なからずある。 それに、これだけ新興国の追い上げ態勢を微に入り細を穿って書かれると、なんだかお尻に火がついたような、落ち着かない気持ちにさせられる。 日本も過去にはエコノミックアニマルなどと言われて、なりふりかまわず頑張っていた時代もあるが、その頃のライバルが西側の先進国だけだった事を思えば、次代を担う若者たちの苦労はどれほどだろうか。 頑張ろう、日本!! ブラック・ハート(上)(下) マイクル・コナリー 83点 ハリー・ボッシュシリーズの第3作。 私はちょっと融通の利かないところがあるせいか、ハードボイルドでも探偵が主人公の作品より刑事が主人公の作品の方が好きだ。 探偵はちょっと胡散臭いところがあって、捜査の王道を行くのはやっぱり刑事であろうと思えるからだ。 とりわけこの小説の主人公のハリー・ボッシュや、イアン・ランキンの小説の主人公のジョン・リーバスのような、組織からはみ出した一匹狼的な刑事が登場するシリーズは大好物だ。 本作は4年前のボッシュによる容疑者射殺事件の容疑者は無罪であったという妻からの訴えでボッシュが裁判に掛けられるため、やり手の女性検事などが登場するいわゆるリーガル・サスペンス的趣が強く、そこに例によってボッシュの恋愛模様などが絡んでくる。 私的にはそこら辺の描写はもう少し少な目でも良いのだが、作者がイメージするハリー・ボッシュはスティーブ・マックイーンなのだそうだから、女性にもてるのも仕方ない。 私はどうも、若い頃のジーン・ハックマンが浮かんでしまうのだが・・・。 トランク・ミュージック(上)(下) マイクル・コナリー 85点 ボッシュ・シリーズ第1作「ナイト・ホークス」で登場した元FBI捜査官エレノア・ウィッシュが再び登場。 「ナイト・・」ではタフさが目立ったエレノアだったが、本作ではタフさよりむしろ繊細さが目立つ。 そんなエレノアにメロメロのボッシュ。 組織の中では一匹狼なボッシュだけれど、なぜか女性には弱い。 そんなところは「ゴルゴ13」とは違う。 ラストは相次ぐどんでん返しが待っている上に、「ナイト・ホークス」とリンクしたような展開になるが、やっぱりどんでん返しの大好きなジェフリー・ディーバーほどのあざとさを感じさせない所は流石。 それにしても、ボッシュがエレノアを運命の人だと思っていたなんて、第1作を読み終わったときには感じなかったな。 その後もいろいろな女性との出会いがあったようだが、時系列に読んでないので良くわからない。 虚言少年 京極夏彦 83点 「ルー・ガ・ルー」で近未来の女子高生の血塗れの闘争を描いた京極夏彦だが、今回描かれているのは小学校高学年の少年たちの日常だ。 中に一人、正に自身がモデルと思われる少年もいる。 子供は無垢だと言われるが、子供には子供なりの処世術があるもので、ただ子供であるゆえにそれを明確に意識していないところが無垢と思われる所以かもしれない。 この小説では登場人物の子供たちの処世術を明文化し、しかもそれを大人の語り口で描いていて妙に説得力がある。 登場人物が小学生であるにもかかわらず、浮世離れした、ともすればオタッキーなユーモア感覚がそこここに散りばめられているところも、相変わらずで面白い。 いや、子供なんだから浮世離れしているのは当然かもしれないが・・。 この人の書く京極堂シリーズは大好きなのだが、それ以外の妖怪噺や怪談には載れないところがあり、「ルー・ガ・ルー」もいまひとつだったのだが、この本は久しぶりに楽しめた。 それにしても京極堂シリーズの続編は出ないのだろうか? あれだけこってり書いちゃったから、もう無理か? 土曜日 イアン・マキューアン 82点 世界中の人々が漠然とした不安を抱いていたアメリカの9・11テロ後のロンドン。 早朝ふと目覚めた主人公は、炎を上げながらヒースロー空港へ向かう飛行機を偶然目撃する。 事故か、はたまたテロなのか? そんな不安な予兆の中で始まるある土曜日を、マキューアン的な精緻な筆致で綴っていく。 主人公は腕の良い脳神経外科医なのだが、圧巻なのは医療経験など全くないマキューアンが描く、殆どマニアックとも思える脳外科手術の記述の細密さ。 これには、訳者がアドバイスを受けた医療関係者も、本物の医者が書いたようだと感嘆したそうだ。 ベテラン作家の面目躍如と言った感もあるが、ただ、そのシーンの記述が鮮烈過ぎて、他の出来事の印象が希薄に感じられてしまう。 この小説は医療ドラマというより、不安な時代に生きるある家族のドラマであるはずなのだが・・・。 いろいろ問題を抱えているとはいえ、それでもハイソな生活を送る主人公の家族より、脳の難病に犯されているために不安定な精神を抱え、主人公の家族を恐喝するチンピラの青年に同情を感じてしまうのはきっと私だけではないだろう。 ※下記の広告はExciteの営業活動の一環として掲載されるもので、主催者が載せているものではありません 2011年 12月 14日
愛の勝利を ムッソリーニを愛した女 (劇場) イタリア・フランス 83点 イタリアの巨匠マルコ・ベロッキオの作品。とは言え、この監督の作品は初めて観た。 ムッソリーニに、心も体も財産も、文字通りすべてを捧げ、息子までもうけた挙句に捨てられた女性を「コレラの時代の愛」の主演女優がジョヴァンナ・メッツォジョルノ熱演している。 ムッソリーニに執着して追い回す様子はイザベル・アジャーニが主演した「アデルの恋の物語」とか「カミーユ・クローデル」を彷彿とさせる。 これら3人とも実在の女性というところがなんだか悲しい。 ムッソリーニは関係した女性の数が半端じゃなく多かったそうだから、そんな人に執着してもせん無い話だと思うのだが、自分のためというよりむしろ息子のためを思っての必死さが却って仇になって、息子と別れさせられた上、長期間精神病院に幽閉される。 ムッソリーニを演じているのはイタリアで舞台を中心に活躍する、フィリッポ・ティーミという俳優で、こちらもド迫力の演技に圧倒される。 全体的に押さえた色調で捉えられたヨーロッパの町並みの美しさや、それぞれのシーンに流れるクラシック音楽の重厚さが相俟って、久しぶりに観たイタリア映画らしいイタリア映画といった作品だった。 夜よ、こんにちは (劇場) イタリア 79点 こちらも監マルコ・ベロッキオ督の作品。 上記の映画と一緒にキネカ大森で見た。 こちらは1978年に起きた、イタリアのモロ首相誘拐事件を題材に2003年に作られた映画。 いまでこそテロといったらアラブの過激派という感があるが、この当時ヨーロッパではこの映画に登場するイタリアの「赤い旅団」とかアイルランドの「IRA」などがヨーロッパ各地でテロを行っていた。 赤い旅団は大きな組織だったように思うが、この映画に登場するテロリストは4人だけで、その内唯一の女性である主人公が、首相の人間性に触れて揺れ動く様が描かれる。 上記の映画に比べると密室劇のようで規模は小さいが、出演者の服装や髪型、室内の様子などが細部に至るまで 年代当時を再現していて、監督のこだわりを見せられた気がした。 この事件、結末に関してはなんとなく覚えがあったのだが、映画では実際の結末とは違ったラストが用意されている。 バーレスク (DVD) アメリカ 87点 歌手のクルスティーナ・アギレラ主演のミュージカル。 といっても、会話の途中で突然歌い出す類の内容ではなく、歌とダンスはすべてクラブの舞台で演じられるところは従来のミュージカルよりは無理がない感じ。 なんといっても主演のアギレラの歌唱力が凄いのと、本職ではないはずのダンスもなかなか上手いのが見もの。 内容はかなり単純なサクセスストーリーなのだが、すっかり歌と踊りに魅せられ、DVDを買おうかと思ったくらいだった。 そういえばクリスティーナ・アギレラて、「シャイン・ア・ライブ」というストーンズのドキュメンタリー映画で、ストーンズの舞台にゲスト出演してミック・ジャガーに「なかなか気に入った」とか言われていたっけ。 日頃は熱唱タイプの歌手が必ずしも好きと言うわけではないのだが、「ドリーム・ガールズ」を観た時もビヨンセの歌声に感動した。 こういった映画を見ると、やっぱりアメリカのエンターテイメント界は奥が深いと感じさせらる。 それから久しぶりに見たシェールの年齢を感じさせない容姿と歌声に、これまたびっくり。 すべて彼女のために (DVD) フランス 81点 先月観たアメリカ映画「スリー・デイズ」のオリジナル盤。 主演は「女はみんな生きている」などにも出演している渋い中年俳優のヴァンサン・ランドン、妻役はダイアン・クルーガー。 骨子は2作品とも殆ど同じなのだが、アメリカ盤の方がラストの演出に工夫があってハラハラさせられた。 妻役のダイアン・クルーガーがフランス語が上手くて驚いたけれど、この人世界的に名前が売れたのもフランス映画の「ミッシェル・バイヨン」だったっけ。 と思ったら、元夫がフランス人監督のギョーム・カネだった。 この映画だけ見たら悪くないと思ったかもしれないけれど、リメイク盤と比べてしまうとちょっと物足りない感じがあった。 ハリウッドリメイクって、お金を掛けている割にはオリジナルより面白くなくなっていたりする事も多いのだが、この映画に関しては、リメイクを作ったポール・ハギスの方が、観客に受けそうなツボを心得ているかもしれないと思わされた。 君を想って海を行く (劇場) 85点 フランス なんだか凄く切ない映画だった。 マイケル・ウィンターボトム監督の「イン・ディス・ワールド」ではアフガニスタンからコンテナに隠れてイギリスに密入国しようとする人々が描かれていたけれど、この映画ではイラクから紛争を逃れて徒歩でフランスに入国した難民が、今度はフランスからトラックでイギリスに密入国しようとする。 ところが国境では、取り締まりのために二酸化炭素の検知器を使っているから、ビニール袋を被って、息が外に漏れないようにしなくてはならない。 そのために死ぬ人間もいる。 フランスでは増える不法滞在者に苦慮して、援助を打ち切る政策を採り、取り締まりも強化する。 彼らの一人一人は何も悪い事をしたわけではないが、アラブ人であるというだけで差別される。 それどころか、不法滞在者を匿うと、フランス人であっても逮捕される。 フランスはイラク攻撃に反対したけれど、だからといってイラク人に同情しているわけではないんだという事を思い知った。 そういえばあの時も、フランスが反対するのは別に人道的な立場からではない、という論調もかなり聞かれたよなあ。 各国の思惑に翻弄されるイラクの人々こそ気の毒だ。 主役のイラク人青年はイギリスにいる恋人に会うため、ドーバー海峡を泳いで渡る。 それから上記の映画に主演しているヴァンサン・ランドンがこの映画では、青年の水泳のコーチとして出演している。 この人、外見強面だけど、なかなか良い味出している。 二本にいると中々わかりにくいヨーロッパとアラブの複雑な関係が垣間見え、またこういった状況の中、個人のレベルで何が成せるかなど、いろいろ考えされられる映画だった。 バビロンの陽光 (劇場) イラク/イギリス/フランス/オランダ/パレスチナ/アラブ首長国連邦/エジプト 86点 こちらはイラク人の監督が撮った、フセイン政権崩壊後のイラクの人々を描いた映画。 上記の映画と一緒に、イラクつながりでキネカ大森で2本立て上映された。 おばあちゃんと孫の少年が、フセイン政権下で逮捕されその後行方不明になった父親を探して旅するロードムービー。 出演者が全員素人という、アラブの映画には良くある手法だが、こういう映画を見るとプロの俳優のテクニックだけが観客を感動させるわけではないとつくづく思う。 とにかく、主演の少年とおばあちゃんが凄く良い。 決して演技が上手いというわけではないし、セリフもどちらかというと棒読みに近い。 それでも真摯さとか真剣さがダイレクトに伝わってくるのは、現実に映画の内容に通じる背景を背負っているという重みがあるからだろう。 フセイン政権崩壊後に次々見つかる、集団墓地。そこに埋葬されたおびただしい数の遺体。 見ていて、ポルポト政権下のカンボジアを映画化した「キリング・フィールド」を思い出した。 だからと言って、人々がフセインを倒したアメリカに好感を持っているわけではないというのが、映画の中でも表現されている。 アメリカ側からではない、イラク側からイラクの現状を描いているという点では貴重な映画。 冷たい熱帯魚 (DVD) 日本 69点 あっちこっちの単館系の映画館で上映されていたし、凄いという評判もあったのでどんな映画かと思って借りてみた。 正直言って、「凄い」というより「くどい」という感じしかなかった。 後でいろいろ読んで知ったのだけれど、監督の園子音という人、今海外でもかなり注目されているらしい。 後からユーザーレビューを読んだら、グロいと書いている人がかなりいて、最初にそれを読んだら見なかったかもしれない。 その問題のグロいシーンは、観ている時にはさほど感じなかったのだけれど、妙に後を引いて、見たあと4、5日はふとした瞬間に思い出して困った。 90年代に起こった愛犬家殺人事件に題材を採っているという事だが、あの頃愛犬家殺人事件というのが立て続けに2件起こって、最初の事件の事は割合覚えていたのだけれど、この事件の事はあまり覚えていなかった。 ウィキペディアで調べてみた所、映画の中で犯人が言っているセリフの殆どは、実際の犯人が言った事であるのを知って物凄く驚いた。「死体を透明にする」とか「殺人のオリンピックがあったら俺が金メダル」とか。 出演者は主演のでんでんをはじめ、一人残らず怪演しているが、中でもテレビのサスペンスドラマなどにも良く出演している黒沢あすかの怪演ぶりがすさまじかった。 というより、この監督の演出プランに則って演じるとなったら、だれもがこんな風に演じるしかないんじゃないだろうか。 それくらい、すべてにおいて「くどい」。 監督曰く、実際の事件はラストが面白くないから変えたそうだが、後半になるとさらにくどさがマックスになって、殆どげんなりって感じだったけれど、とにかく我慢して最後まで見た。 エリックを探して (DVD) イギリス/フランス/イタリア/ベルギー/スペイン 81点 元プロサッカー選手のエリック・カントナがプロデューサーを務め、自ら出演もしているハートフルコメディー。 監督は「麦の穂を揺らす風」でカンヌ映画祭パルムドールを受賞した英国の巨匠ケン・ローチ。 ケン・ローチといったら弱者に焦点を当てた社会派のドラマを撮る監督といったイメージだけれど、この映画の主人公はカントナを神と崇めるサッカー好きの中年のおじさん。 2度の結婚に失敗し、すっかり気落ちしている主人公の元に、カントナの幻影が現れ励ますという、ちょっとファンタジックな作りにもなっている。 ラストの展開は些かご都合主義的な感じもがしないでもないが、いつものケン・ローチ作品とは違った気楽さがあって楽しめる。 それにしても、イギリス人は本当にサッカーが好きだ。 他のヨーロッパ諸国でもサッカーは盛んだけれど、サッカーを題材にした映画を一番作っているのはなんといってもイギリスだろう。 スタープレイヤーと有名監督の組み合わせという企画が実現したのも、そういったイギリスならではの事情があるからこそ、なのではないだろうか。 珈琲時光 (劇場) 日本 80点 ホウ・シャオ・シェンが、小津安二郎生誕100年のオマージュとして東京を舞台に撮った作品で、歌手で父親が台湾人である一青窈主演している。 一青窈の、殆どセリフを喋っているとは思えない自然体の語り口が凄く新鮮で印象的だった。 とにかく表現が淡々としていて、生活描写などは物凄くリアルなのだけれど、主演の女性が何をして生活しているのかわからなかったり、未婚の娘が妊娠していると聞いた田舎の両親の反応が妙に薄かったりと、登場人物の行動には逆にあまり現実感がない、なんだか不思議な味わいの映画だった。 特に父親役のベテラン俳優、小林 稔侍が殆どセリフをしゃべらない。 これは多分小津作品の父親像を、監督なりに解釈した結果なのだろうけれど、気持ちはわかるけどいくらなんでもこんな父親はいないよなあ、と思わず突っ込みを入れたくなってしまった。 画面に都内を走る電車や駅が多数写しだされるのも特徴的で、なんだか鉄男が喜びそうだなと思って見ていたら、浅野忠信演じる古書店の店主自身がその鉄男で、車内放送など録音するシーンが挿入されている。 一青窈の女優としての能力と、それに呼応するような自然体の演技の浅野忠信には好感が持てたし、淡々とした映画は嫌いじゃないのだが、ここまで感情表現が希薄だと、些か退屈な感じが否めなかった。 百年恋歌 (劇場) 台湾 78点 こちらもホウ・シャオ・シェン監督作品。例によってキネカ大森で上記の作品と2本立て上映だった。 3つの時代の3組の男女の恋愛模様を描くオムニバス映画。 それぞれの時代のカップルを、すべて「トランスポーター」に出演したスー・チーと、「グリーン・デスティニー」に出演したチャン・チェンの二人が演じる。 60年代のビリヤード場を舞台にした第一話は、この監督の初期の作品「恋恋風塵」を思わせるし、20世紀初頭の遊郭を描いた第二話はサイレント形式になっていて、映像や音楽が美しいのだが、どの作品もストーリー性よりも芸術性が勝っているような作り方で、感情的にいまひとつ入り込めなかった。 そういえばやっぱりスー・チーが主演した「ミレニアム・マンボ」もあんまり面白くなかった。 ホウ・シャオ・シェンの映画は初期の「冬冬の夏休み」とか「恋恋風塵」、最新作の「赤い風船」などは好きだったのだが・・。 とはいえ、シャオ・シェンファンは多いらしく、キネカ大森はいつになく座席が多く埋まっていた。 愛のむきだし (DVD) 日本 75点 私にとってはくどさマックスだった「冷たい熱帯魚」の園子音監督の4時間の大作映画。 「冷たい熱帯魚」は相当拒否反応が出てしまったが、この映画はかなり評価も高いし、テレビで偶然「モテキ」を見て以来ファンになった満島ひかりの出世作だし、などと思って借りてみた。 なんだかんだ言ってもこの長尺の映画を飽きさせずに見せる手腕というのはある意味凄いとは思うものの、私にとってはこの映画もやっぱりくどかった。 発想は面白いし、主演の二人は外見も可愛いい上に演技力もあって悪くなかったし、特に目当ての満島ひかりが泣きながら聖書のコリントの使途への手紙を暗唱するシーンは、監督の言うとおり、正に神掛かったような演技で驚かされた。 でもいかんせん内容がてんこ盛りな上に、これでもかと言うくらい同じシーンが繰り返される展開は、誰が何と言おうと演出過剰と言わざるを得ない。 パンチラだって、チラッと見えるからはっとするのであって、これだけ見せ付けられたら何も感じなくなるんじゃないの? それに新興宗教の勧誘員を演じた安藤サクラと、主人公の少年の父の愛人を演じた渡辺真起子の演技がわざとらしくて閉口した。 もっともこの監督の演出では、殆どすべての俳優に目一杯過剰な演技が要求されるだろうから、俳優は皆オーバーアクトになってしまうのだろう。 そのせいで、出演者は皆それまでにない何かを引き出され、あちこちの映画祭で賞を受賞することになり、故にいろいろな俳優がこの監督の作品に出演したがるのだろう。 この監督の映画を2作品見た限りでは、過剰さによって見る側の感情を揺さぶられ、それで映画の牽引力が増しているとは思うものの、それは同時に両刃の剣ともなって、私のような拒否反応を起こす人間も少なくないんじゃないだろうか。 なんだかいつもダイレクトな直球勝負って感じで見てて疲れるけど、他の作品もそうなんだろうかといった、なんだか怖いもの見たさみたいな興味もある。 少なくとも、現在公開中の「恋の罪」や来年早々公開される「ヒミズ」は、この延長線上の作品のようで、それ故今回も主演の若い二人にヴェネツィアで賞が齎された。 なんか「ヒミズ」観に行っちゃうかもしれないなあ。 切腹 (DVD) 日本 86点 10月に公開されて話題を呼んだ三池崇監督の「一命」の1962年に作られたオリジナルバージョン。 当時まだ30歳の仲代達也が、殆ど年齢の違わない石浜朗の義理の父親役を演じて圧倒的な存在感を見せている。 それを踏襲してか、リメイク盤ではそれぞれの役を、こちらもあまり年の違わない瑛太と市川海老蔵が演じているが、予告で見た限りでは、海老蔵はこの映画の仲代達也には及ぶべくもないように見えた。 社会派の映画を多く撮っていた小林正樹監督がメガホンを取っただけあって、人間ドラマとしての重厚さに加え、白黒画面によるシャープな画面構成や、無駄のない演出、それぞれのシーンに応じた適宜な音楽の使い方など、当時の日本映画の水準の高さが窺い知れる内容になっている。 しかもラストにどんでん返し的な展開もあって、エンターテイメントとしても面白い。 他の配役としては、敵役に三国連太郎や丹波哲郎など当時の日本映画界の重鎮ともいえる俳優を配していて、最近の漫画やアニメ由来の映画とは一味も二味も違う、大人のための映画といった作品だった。 終盤の仲代、丹波の果し合いのシーンではなんと真剣が使われたのだそうだ。 監督の半端じゃないこだわりが、画面のあちこちに見られる、そんな映画。 ラビット・ホール (劇場) アメリカ 78点 ピューリッツァー賞を受賞した戯曲をニコール・キッドマンが初プロデュースし、主演も演じている映画。 犬を追って道路に飛び出し事故にあって死んだ4歳の息子。その喪失感に苦しむ母親をキッドマンが熱演している。 監督は「ヘドヴィク・アンド・アングリーインチ」や「ショートバス」など個性的な作品で注目を浴びた、ジョン・キャメロン・ミッチェル。 この映画では、同じ痛みを共有しながらすれちがう夫婦と、二人を巡る人々の姿を、いつにない手堅い演出で撮っている。 でもなんだか手堅すぎちゃって、「ヘドヴィク・・」を観た時のような強烈な印象が残らない。まあ、テーマは全然違うけど。 同じように息子をなくした夫婦のすれ違いを描いた映画では、シシー・スペイセクが主演した「イン・ザ・ベッドルーム」のほうが、見た後強く印象に残った。 あの映画の記憶があったので、この映画を観た時にどこかで見たようなと思ってしまい、印象が薄くなってしまったかもしれない。 それに、なんとなく上から目線のこの母親にあまり共感出来なかったというのも、この映画に入り込めなかった理由のひとつのような気がする。 この人のお母さんも、麻薬の過剰摂取で息子を亡くしているのだけれど、そんな自分の母親に対して、この人、それとこれとを同列に考えないでなどとの給うのである。苦しくて思わず当り散らしたのかもしれないけど、後で謝るわけでもなかったし・・。 それに、息子を撥ねた車を運転していた少年と交流することによって癒されていくというのも、いまひとつわからなかった。 ニコールのような演技派女優がチャレンジしたがりそうな役ではあるなあとは思ったが。 ※下記の広告はExciteの営業活動の一環として掲載されるもので、主催者が載せているものではありません 2011年 11月 28日
(採点はあくまで私の主観に基づいていますので、私のレベルが低いせいで理解が及ばす、伸びない場合も多々ありますので悪しからず)
10月に観た映画 トゥルーグリッド (DVD) アメリカ 80点 コーエン兄弟監督による西部劇。 アカデミー俳優のジェフ・ブリッジスとマット・デイモンが出演しているものの、オーディションで の中から選ばれた 才の が達者な演技を見せている。 コーエン兄弟作品に見られる毒の効いたシニカルなユーモアは押さえ気味で、主役の少女の成長と、孤独で偏屈な初老の男との心の交流を描いたヒューマンドラマとなっている。 その点ちょっと物足りなさも感じたが、いつものコーエン兄弟らしからぬラストは、ちょっと感動的。 まあ、そのつもりで観ればなかなか面白いし、西部劇が好きな人ならきっと楽しめる。 「ノー・カントリー」でお金を持ち逃げする保安官を演じていたジョシュ・ブローリンが、少女の敵役で出演しているのも見所。 戦場でワルツを (DVD) イスラエル・フランス・ドイツ・アメリカ 83点 イスラエルのアニメ映画だが、監督のアリ・フォルマン自身の従軍体験に基づいているだけあって、アニメとは思えないくらいなシリアスな戦争をテーマにしたヒューマンドラマになっており、世界各国で高い評価を受けた。 日頃日本やアメリカのアニメを見慣れた目には、この映画のリアルな映像は非常に斬新に写ったし、音楽の使い方も秀逸だった。 イスラエル人自らが、レバノンで行った虐殺を映画化したのは驚きだし意義もあると思うが、ただ、主人公に虐殺時の記憶がなかったり、表現をアニメーションにしたという点は、直視するのにはためらいがあるのかなと思えてしまう。 と偉そうな事を言ったって、レバノンとパレスチナとイスラエルの関係を含めた中東情勢は、あまりにも複雑で、実の所良くわかってはいないのだけれど。 2年位前に観たレバノンの映画は、紛争当事国とは思えない平和な日常が捉えられていたし。 この映画、ラストは虐殺を伝える当時の実写のニュース映像で終わるのだが、正直なところ、私はやっぱり実写で観てみたかった。 ランナウェイズ (DVD) アメリカ 77点 ランジェリー姿で舞台に立って、日本でも大人気だったランナウェイズのシェリー・カーリーをダコタ・ファニングが演じているという所に興味があって借りてみた。 確かに、ちょっと見ない間にダコタは凄く大人っぽくなった。 でも、この映画の主役はむしろランナウェイズのリーダーであるジョーン・ジェットを演じた 。 この人の出演作は「イントゥー・ザ・ワイルド」しか見た事がないが、この映画や、大ヒットしたヴァンパイア映画の「トワイライト」シリーズの予告で見た感じとは大きく異なる、ワイルドなイメージの女の子を見事に演じていてちょっと驚いた。 映画自体はどちらかというとイメージが先行してしまっていて、ドラマとしての掘り下げはいまひとつ。 あっという間に解散してしまったランナウェイズだけれど、解散後もがんばって「アイ・ラブ・ロックンロール」を大ヒットさせたジョーンと、普通の女の子に戻ったシェリーとのその後の人生の違いが印象的だった。 久しぶり聞いた「トゥ・トゥ・トゥ・トゥ・トゥ・トゥ・トゥ・チェリーボンブ」懐かしかったぁ! イヴ・サンローラン (DVD) フランス 78点 キネカ大森で観た二本立ての一本。 50年の長きに亘って、仕事とプライベートの両面でサンローランのパートナーだった によって語られるドキュメンタリー。 ただ、映画なのに静止画像を多様しすぎている感が否めない上、映画自体をこのパートナーが仕切ってる感じがしてあんまり面白くなかった。 なにせ本人よりこの人の出演時間のほうが多いくらい感じられた。 他の人たちのインタビューももっと聞きたかったし、プライベートも良いけど、仕事しているシーンとかインタビューに答えてるシーンとか、デザイナーとしての仕事振りをもっと知りたかった。 サンローランは「名声とは幸福の輝ける葬列だ」と言っていたんだそうだ。 亡くなった後、どこかのスタジアムで行われた世界の五大陸から集まったモデルたちで行われた集大成のショーに、ちらっと川原亜矢子が写っているのを発見。 ラストは二人で買い集めた美術品のオークション。下世話な私は、売ったお金を誰が相続するのかちらっと気になった。 シャネル&ストラヴィンスキー (劇場) フランス 82点 キネカ大森の二本立てのもう一本。 ストラヴィンスキーを演じているのがマッツ・ミケルセンだというので、好奇心に駆られて見に行った 冒頭のバレエの「春の祭典」の初演シーンでダンス、演奏 観客のブーイングなどすべてに緊張感があってすごく面白かった。 それ以外は案外思ったとおり。 でもこの映画、ストーリーよりなにより、ファッション、インテリア、風景など画面の美しさが格別だったし、音楽の使い方も良かった。 特にシャネル役を演じたアナ・ムグラリスは、前に見たシャネル映画のオドレイトトーよりずっとシャネルの服が似合ってたし、着こなしも凄く良かった。 と思ったら、このひと実際にもここ数年シャネルのミューズとしてモデルを務めていて、平素もシャネルの服を着てるんだって。 衣装もシャネルの現在のデザイナーであるカール・ラガーフェルドが担当しているそう。 そこまでなっちゃうとちょっとシャネルのコマーシャルフィルムみたいで、バーターっぽくてなんだかなあって気がしないでもないが・・。 それにしても、マッツは男女間のいろいろに関しては微妙な立場に立たされる役が多い。 それにこの映画ではロシア語とフランス語でセリフを喋った上、ピアノも弾いて、なんだか大変そうだった。 でも、もろもろ考えると、マッツはシャネルを盛り上げるのに一役買わされたってことになりそう。ごくろうさまマッツ。 ザ・タウン (DVD) アメリカ 76点 ベン・アフレックの監督、主演の犯罪映画。 ギャングを牛耳っている花屋が、仲間に対して全然情がなく、これで良く皆が付いてくなと不思議だったり、ベンの相手役の銀行の女の人がベンがいろいろ探りを入れてるのに全然気づかなかったり、街の人間同士のつながりが、情というよりそれぞれが脅しあって繋がってる感じがしたりと、人間ドラマとしてはいまひとつ。 たいていは憎まれ役のFBIのリーダーが、この映画では妙に知的に見えた。 ベンだけでなく共演のジェレミー・レナーの役まわりにも殆ど意外性がなく、すべてにおいて予定調和内に話が収まってしまう。 せめてラストはもう一ひねりあって欲しかった。 ダンシング・チャップリン(DVD) 日本 90点 周防正行監督が、舞台で演じられていたバレエ作品を再構成して撮った映画。 前半はこの映画を撮影するための準備のドキュメント。 元々この舞台を考えた振付師のとローラン・プティと監督の間で意見の相違があったりして面白い。 後半の踊りのシーンはとにかく美しくて楽しい。 もともと振り付けにチャップリンの動きを取り入れている上、アップで撮ったり、ターンを上から撮ったりといった表現は映画ならではで、舞台とは違った面白さがある。 舞台で踊る事は引退したとはいえ草刈民民世はきれいだったが、流石にモダンなダンスよりクラシックなダンスのほうが動きが美しく感じられた。 主演のルイジ・ボニーノも60歳とは思えない素晴らしい動き。 ダンスのドキュメンタリーは皆面白くて、これも永久保存版にしたいくらい。 それにしても草刈民代と周防監督って良いコンビ。 お家をさがそう (Gyao) アメリカ 78点 サム・メンデス監督のコメディータッチのハートウォーミングストーリー。 ツタヤの店舗にもディスカスにもなかったのだが、ギャオストアに売っていたので購入してパソコンで観た。 妊娠をきっかけに、夫婦で新天地を求めて友人や親類を訪ね歩くロードムービーで、オフビートな感じは「リトル・ミス・サンシャイン」的。 行く先々で問題を抱えた家族に遭遇し、家族のあり方を考えさせらる二人だが、妊娠をきっかけに夫が仕事を辞めてまで新天地を探すという設定に必然性がないというか、なんでという感じが先に立ってしまって、なんだかあまり感情移入できなかった。 そもそもサム・メンデス監督自体それほど好きではないし、オフビートな映画ってなんかちょっとだけ私のツボからずれてる感じがして、いつもしっくりこない。 こういうのって、イギリスやフランスのコメディではあまり感じないんだけど。 で、ラストは案外ありきたりな所に落ち着く。 悪くもないけど良くもない、なんだか微妙な印象の映画だった。 スリーデイズ (劇場) アメリカ 83点 感想はこちらをお読み下さい。 アリス・クリードの失踪 (劇場) イギリス 78点 感想はこちらをお読み下さい。 キラー・インサイド・ミー (劇場) アメリカ・スウェーデン・イギリス・カナダ 79点 感想はこちらをお読み下さい。 カウボーイ&エイリアン (劇場) アメリカ 75点 感想はこちらをお読み下さい。 10月に読んだ本 空へ エヴェレストに悲劇はなぜ起きたか ジョン・クラカワー 88点 感想はこちらをお読み下さい。 デス・ゾーン エヴェレスト大量遭難の真実 G・ウェストン・デフォルト 88点 感想はこちらでお読み下さい。 零下51度からの生還 ベック・ウェザース 85点 感想はこちらでお読み下さい。 時間はどこで生まれるのか 橋元淳一郎 90点 大体において、この本の題名のような事をいままで考えた事もなかったから、題名自体が新発見みたいな感じだった。 内容はわたしのような科学音痴にはかなり難しいが、でも面白い。でもやっぱり難しい。 私などは、時間というのは宇宙が出来た時にから流れ始めたと思えるのだが、どうやらそうではないらしい。 時間というのはミクロの世界には存在せず、マクロな世界にのみ流れるのだそう。 故に、時間は生物が進化を開始した時に生まれた、ということらしい。 その記述だけでも目からウロコだったが、面白難しくてあと3、4回は読まないとわからない。 (それでもわからないかもしれないけど) チャイルド44(上)(下) トム・ロブ・スミス 84点 ロシアがまだソ連だったころに実際にあった連続殺人事件をベースに書かれた小説。 書いたのはイギリスの新鋭作家だが、ドラマチックでスピーディーな語り口でどんどん読める。 猟奇殺人をテーマにした小説は多々あるけれど、この小説はソ連のKGBの幹部だった男が犯人を追い詰めていくという設定が新鮮だった。 なにせソ連が舞台で西側の作家が書いた犯罪小説やスパイ小説は、アメリカ人やイギリス人が主人公ってことが多いから。 小説の冒頭に起こったエピソードが巡り巡ってラストに収斂していくのだが、結末はあくまで著者の想像の産物だ。 実際の事件は「大量殺人者はわが国には存在しない」といったソ連体制の態度が犯人の逮捕を遅らせ、50人もの犠牲者を出したそうだ。 とはいうものの、ロシアでは民主化された後でさえも、この小説は出版されていないらしい。 ロシアにとっても触れて欲しくない暗い過去、なんだろうなきっと・・。 イギリス人の患者 マイケル・オンダーチェ 89点 映画「イングリッシュ・ペーシェント」の原作本。 映画は大分前に観たので、戦争中に砂漠で飛行機が墜落して全身やけどを負ったパイロットが、ジュリエット・ビノシュ演じる看護婦に人妻との恋を語るということしか覚えていない。 原作にはそれ以外に看護婦の父の友人とインド人の爆弾処理に携わる工兵が登場し、戦争によって翻弄され、そしてそれ故に絡まりあった4人の人生が入れ子細工のように語られていく。 作者は元々が詩人であったことから、筆致は繊細で叙情的。戦争の痛々しさを伝えながら、尚且つ美しくもある。 ラストには日本に落とされた原爆の報によって、さらに4人の運命が変転する。 私は映画より原作の方が良いと感じた。 ふつうがえらい 佐野洋子 88点 人間処世術としていろいろな皮を被っているものだと思うが(そうでもない人もいるかもしれないが、わたしはそう)、佐野さんの本を読むと「そんな皮、被ってなくたっていいじゃん。脱いじゃいなよ」って言われているような気がする。 読んでいる時は、その通りだよと思ったり、そんな風に考えたり行動できる佐野さんを羨ましく思ったりしているが、読み終わると結局また元に自分がいる。 でもとにかく読んでいる時は元気が出る。 そういう意味で、佐野洋子のエッセイは私には貴重だ。 ※下記の広告はExciteの営業活動の一環として掲載されるもので、主催者が載せているものではありません 2011年 11月 13日
正直言って、登山らしい登山をした記憶なんて、生まれてこの方一変もない。しいて言えば、小学校の時に登った高尾山か、中学の林間学校で行った那須高原くらいか。 登山どころか最近では、駅の階段を登っても息切れがする。 そんなんだから、エベレストに登る人なんて人類の中でも特別のそのまた特別な人、みたいな思い込みがあった。 だから10年くらい前、登山家の野口健さんがテレビで「実はエベレストはゴミだらけ」と発言しているのを聞いて、非常に驚いた。 テレビにはエベレストの麓をニコニコ笑いながらトレッキングしている、普通の人々の姿がたくさん映っていた。 中村玉緒がゴミ処理会社の社長を演じるあるサスペンスドラマシリーズで、その社長はいつも「人間のいるところにゴミあり」と力説するが、まさにエベレストもそんな状態になっているらしい。 そういえば、ガラパゴスも世界遺産に登録されてから現在に至るまで、ゴミに悩まされていると聞いたことがある。小笠原もそんな風にならなければ良いけど。 野口さんは現在も、あちこちの山の清掃登山の旗振り役となっているようだ。 といっても、別に野口さんがきっかけでエベレストの本を読んでみようと思ったわけではない。 続きを読む 2011年 11月 07日
![]() なんともB級の香りぷんぷんの題名で、なんだかなあと思っていたのだが、友達が久しぶりにダニエル・クレイグが観たいというので一緒に見に行った。 でもまあ、なんか微妙な味わいの映画だった。 出演者は、主演のダニエル・クレイグをはじめ、大御所のハリソン・フォード、実力派のサム・ロックウェル、若いけど個性が光るポール・ダノ、それからベテラン俳優のキース・キャラダイン(大作にはあまり出演しないけど、70年代の後半の「プリティーベイビー」や「モダーンズ」に出演していた頃はかっこよくて大好きだった)など、錚々たる顔ぶれ。 それもそのはず、この映画、例の製作総指揮というわけのわからないポジションにスピルバーグが名を連ねている他、監督が「アイアンマン」シリーズをヒットに導いて現在かなり注目株のジョン・ファブロー。 この人、「アイアンマン」ではアメコミのヒーロー役に、アカデミー賞ノミネート経験もある演技派のロバート・ダウニー・Jrという思いがけないキャスティングをして大当たりを取ったが、原作がアメリカのグラフィックノベルである今作でも、2匹目のドジョウを狙ったキャスティングかな、という感じがしないでもなかった。 でも、流石にこれだけの人材が集結すると、簡単にB級と言い切れないところもある。 なにしろこの映画、西部劇の部分だけみると、バカにならないくらい出来が良いのだ。 続きを読む 2011年 10月 31日
いずれもネタばれありです。
スリーデイズ ![]() 「すべて彼女のために」というフランス映画を、「クラッシュ」や「告発の時」のポール・ハギス監督がリメイクしたサスペンスドラマ。 元の映画はフランスでは思わぬヒット作となったらしい。 いわゆる脱獄映画なのだが、無実の罪で服役する妻を夫が脱獄させるという点が新しい。 妻を演じるのは「スパイダーマン」などでおなじみのララ・ブレナン、夫を演じるのがラッセル・クロウ。 家族を助けるためとか家族の復讐のためにおじさんが頑張る映画には、最近公開された「96時間」や「完全なる報復」なんていうのがあるが、それらの主人公が元特殊工作員だったりするのに対して、この映画の主人公は単なるカレッジの先生。 それをマッチョなイメージの強いラッセル・クロウが演じている所もまた新しい。 でも、最近のラッセルって、「LAコンフィデンシャル」や「グラディーエイター」に出演して、ハリウッド女優とがんがん浮名を流していた超セクシーが売りだった頃に比べて、体型も歩く姿なんかもめっきりおじさん臭くなって、こういった普通の役を演じても嵌るようになったところが私には却って好ましい。 昔「ビューティフル・マインド」で記憶障害のある数学者を演じた時には、なんだか違和感があったけど。 続きを読む 2011年 10月 24日
(採点はあくまで私の主観に基づいていますので、私のレベルが低いせいで理解が及ばす、伸びない場合も多々ありますので悪しからず) 最近更新滞ってしまってすみません。 9月に観た映画 ブローンアパート (DVD) イギリス 78点 たまたま知り合った男性との浮気の最中に、夫と息子がテロに巻き込まれて死亡し、自責の念にさいなまれる人妻をミッシェル・ウィリアムズが熱演。 とにかくミッシェル・ウィリアムズが頑張って、彼女のための映画といえるくらい。 浮気相手でジャーナリストでもあるユアン・マクレガーがテロについて調べるうち、意外な真相に突き当たるといったミステリーの要素もある。 テーマ的にはシャルロット・ゲンズブール主演で話題になった「アンチクライスト」と被るものがあるが、こちらのラストには希望が見えるところが大きく異なる。 シルビアのいる街で (DVD) スペイン・フランス 77点 スペインの新鋭監督ホセ・ルイス・ゲリンの描くラブストーリー。 中盤のちょっとした会話以外殆どセリフがない前衛的な作品だけれど、なぜか退屈もせず最後まで引き付けられる不思議な映画だった。 なんといっても主演男優のグザヴィエ・ラフィットが美形なところが、飽きずに観られる大きな要因。 それ以外の女性出演者も美人が多く、主人公がストーカーまがいで追いかけるのは「女王ファナ」や「アラトリステ」にも出演していたピラール・ロペス・デ・アジャラという人。 スペインの町並みも美しく、どちらかというとイメージフィルムみたいな作品だった。 ゴーストライター (劇場) フランス・ドイツ・イギリス 84点 感想はこちらで。 家族のかたち (DVD) イギリス 80点 一人の女性をめぐる二人の男性の恋の駆け引きを描いたハートフルコメディ。 冒頭で、テレビの告白番組で現在の彼氏のリス・デイヴィスがプロポーズするのを、家出した夫のロバート・カーライルがたまたま見ているというアイデアが面白い。 ロバート・カーライルは相変わらずのやくざな男だが、対するリス・デイヴィスのいつにないとぼけ具合が味あって良かった。 優柔不断な母親に対して、しっかり者の娘を演じた12歳くらいの女の子が大人を食っちゃうくらいの演技力で、イギリスにもこんな子役がいるんだとちょっと驚きだった。 ロバート・カーライルの去り際のよいのも、いつにない感じで面白かった。 イギリスのヒューマンドラマってやっぱりいいな。 パリより愛をこめて (DVD) フランス 79点 出演者はアメリカやイギリスの俳優だし、言語も英語だし、ハードなアクション映画だけれどフランス製。 ジョント・ラボルタが出てきてしばらくすると中国人マフィアをばんばん撃ち殺しちゃって、なんかばかばかしいと思って見ていたが、後半になると話が思いがけない方向に向かい、だんだん面白くなった。 監督は「96時間」をヒットさせたフランス人のピーター・モレル。 「96」でもおじさんのリーアム・ニーソンがハードなアクションに挑んでいたが、この映画でも若手のジョナサンでなくトラボルタが一人頑張ってアクションを演じているのが見もので、しかもなかなか上手い。 あと、監督がリュックベッソン作品の撮影監督だっただけあってカーチェイスが面白く、普段カーチェイスには全く興味のない私のような人間が見ても、思わず「凄い」と目をひきつけられた。 アクション中心な展開だがジョナサンの演技でリアリティが増したし、共演者のポーランド出身のカシア・スムートニアックという女優もなかなか良く、日頃アクションはそれほど大好きというわけでもない私のような人間も結構楽しめた。 ミケランジェロの暗号 (劇場) オーストリア 86点 「ヒトラーの贋作」の製作チームが撮った、第二次世界大戦中のオーストリアを舞台に描くサスペンス・ドラマ。 主演はドイツの売れっ子俳優モーリッツ・ブライブトロイ。 ナチスを相手の駆け引きとは言うものの「ヒトラーの贋作」のように全編通して緊張感というわけでなく、ところどころにユーモアが漂う点が「ヒトラー・・」とは大きく異なる。 先月観た「セラフィーヌの庭」でもそうだったけど、当時のヨーロッパでは画商というのは皆良い暮らしをしている。 やはり日本などに比べ、美術品の価値がそれだけ重んじられているということなのだろうか。 この映画ではミケランジェロのデッサンをムッソリーニとの交渉に使おうとする。 ただ、「ダヴィンチ・コード」を意識したとしか思えない邦題は、ぜんぜん内容を表していない。原題はナチスになってしまった幼馴染と対決するという内容を表す、「MEIN BESTER FEIND/MY BEST ENEMY」。 これをそのまま邦題にしたら、地味すぎてお客は呼べなさそうとは思うものの・・。 シスター・スマイル ドミニクの歌 (DVD) フランス・ベルギー 75点 題名とキャッチコピーとポスターの印象から、感動のヒューマンドラマをかと思って観たのだが、全然違った。 スマイルどころか、どこに行っても周りと上手くいかない主人公は最初から最後まで可愛げがなく、全然共感出来なかった。 実話に基づく話だそうだが、それにしても主人公を描く視点をもう少し何とかして欲しかった。 結局ラストは悲劇的な終わり方をしてしまって、その後ちょっと教会を非難するようなクレジットが流れるのだけれど、主人公に共感できなかったからそれを読んでもいまひとつぴんと来ない。 女性の自立が難しかった時代に果敢に自立を目指した女性の苦闘を描きたかったのかもしれないが、果敢さとわがままとは違うんじゃないの、と思ってしまった。 ファッションが教えてくれること DVD アメリカ 80点 「プラダを着た悪魔」のモデルであるアメリカンヴォーグ誌の編集長アナ・ウィンターズを追ったドキュメンタリー。 アメリカンヴォーグはアメリカ女性の10人に一人が購読し、秋の特大号は2000万部の売り上げを目指すというのでびっくり仰天。 欧米のヴォーグ誌って時々本屋のファッション誌のコーナーにおいてあるから見てもらうとわかると思うけど、厚さが日本のファッション誌の倍くらいあるから重くてとても立ち読みできるような代物ではなく、その上ページ数の半分くらいは広告で占められている。 そのような本がそんなに売れるという事と、アメリカ女性がそんなにファッションに興味があるという事が驚きだった。 この発行部数を考えると、全国津々浦々田舎の片隅まで売れていそうだが、でもアメリカ女性ってそんなにファッションセンス良い? そのヴォーグの人気はひとえにアナの編集能力に拠っているところが大きいらしく、その権力の絶大さは正に「プラダ・・」でも描かれていたとおり。 この映画では同時に20年来アナの片腕として働くグレイスにも焦点が当てられていて、陽と陰ともいえる二人のキャラクターの対比が面白かった。 それにしても、「やたらとニコニコするのは嫌い」というアナの、クールな外見の内に秘められた情熱とエネルギーには感服させられた。 女と銃と荒野の麺屋 劇場 中国 76点 「ヒーロー」や「ラヴァーズ」で、アクション映画にも手腕をみせるチャン・イーモウがコーエン兄弟の「ブラッド・シンプル」に触発されて作った中国版リメイク作品。 コーエン兄弟もチャン・イーモウも好きな監督なので期待して観たのだが、犯罪映画をユーモアとシニカルを交えて撮っているところはコーエン兄弟的ではあるものの、 チャン・イーモウのアクション映画に特徴的な画面の美しさやアクションの華麗さもなく、人間ドラマとしても共感出来るわけでもなく、イーモウ作品にしてはなんだかいまひとつな映画だった。 驚いたのは赤土に覆われた山が連なる中国の風景と、終盤で二階から落ちるシーンをまるごと写しているところくらい。 従来だったら素直に感心できるそれらのシーンも、今はもしかしたらCGと思ってしまうところがなんだか寂しい。 技術の進歩もいいような悪いような・・・。 出演している俳優が皆、日本の芸能人の誰かに似ていると思えた所がちょっと笑えたけど。 9月に読んだ本 コズミック 清涼院流水 78点 先月読んだ「文学賞メッタ斬り」に、鮎哲賞受賞パーティの2次会で有栖川有栖、綾辻行人、法月輪太郎、京極夏彦など錚々たるメンバーが、この作品の話題で盛り上がったと書いてあったのだが、その割にはアマゾンのユーザーレビューの評価はくそみそなのが多く、好奇心に駆られたけど買うほどでもないかと思って、図書館で借りて読んでみた。 くそみそが頭にあって心して読んだせいか、エンターテイメントとして割り切って読んだせいか、やっぱりやたらと長くて閉口した宮部みゆきの「理由」なんかよりは却って楽しめた。だからといって決して褒められた作品というわけではないが。 ご本人は当時(この小説が発売されたのは1996年)、小説ではなく大説というものを書きたいとおっしゃっていたそうだが、ページ数のことを言うんだったら、すでに島田荘司だって綾辻行人だって相当分厚いミステリーを発表していたし、京極夏彦だってすでにデビューしてたわけだから、この作品のボリュームはそれほど目新しいわけでもない。 それに主人公ともいえる探偵の九十九十九(昔人気のあった芸人の九十九一のパクリ?)の型破り度も、京極夏彦の探偵榎津礼二郎に比べたら大したことはない。 京極夏彦の京極堂シリーズは面白くて読むのが止められなくなったけれど、この人はつまらなくはなかったけどこれ以上読みたいとも思わない、といった程度だった。 古代史の秘密を握る人たち 関祐二 電子書籍 80点 もともと古代史にそれほど興味があるわけではないが、ネットの書店で見つけて面白そうだったから買ってみた。 「蘇我入鹿は悪人ではなかった」と言われても、そもそも蘇我入鹿がどんなことをしたのかさえ良く覚えていない有様だから、ここに書かれていることが画期的なのかどうか判断のしようがない。 とはいうものの「古事記」や「日本書紀」など公的に認められた書物に書かれていることの裏側を、様々な資料に基づいて推論している点は結構興味深かった。 これを気に、古代史の本ももう少し読んでみよう。日本人なんだから、日本の事ももう少し勉強しなくっちゃね! ゼルプの裁き ベルンハルト・シュリンク 81点 世界的に大ヒットした「朗読者」の作者ベルンハルト・シュリンクが、「朗読者」を書く前に書いたミステリーシリーズの第一話。 正統派の文学作品として読めた「朗読者」の作者が、ミステリーを書いていたというのでちょっと驚きだったが、シュリンクは憲法裁判所の判事だったこともあるそうだ。 主人公が元ナチスで、そのことに今も罪の意識を感じているという点は「朗読者」に通じるものがある。 両方の本を読んで思った事は、ナチスに加担した人たちの中には戦後、法によって裁かれた人もいれば裁かれなかった人もいるという事。 主人公のゼルプはナチスの検事をやっていたにもかかわらず、裁かれる事なく、現在は探偵をやっている。 この小説はドイツならではのそういった背景や、私が読んだ探偵小説の中ではおそらく最高齢の69歳の探偵という設定が新鮮だった。 それに、プルーストもかくやと思うくらい多様なドイツ料理が登場するところも読みどころのひとつだし、結末にもちょっと驚かされた。 ゼルプの欺瞞 ベルンハルト・シュリンク 83点 シュリンクのゼルプシリーズの第二話で、前作に比べよりミステリーらしい作品になっている。 ドイツ人はミステリーを読むのが大好きなのだそうだが、その割には良いミステリー作家がなかなか育たず、そんな中80年代の半ばに発表されたゼルプシリーズはかなり注目を集めたらしい。 93年に発表されたこのシリーズ第二話は、ドイツミステリー大賞を受賞し、「朗読者」が出版された後の2001年に、シリーズ完結編の「ゼルプの殺人」が書かれている。 シュリンクはこのシリーズ以外にも1989年に「ゴルディオスの結び目」と言うミステリーで、グラウザー賞というのを受賞しているそうなのだが、残念ながらここ数年はミステリーは書いていない。 ドイツの都市と生活文化 小塩節 81点 ドイツのミステリーを読んだせいか、こんな本を読んでみたくなった。 講談社学術文庫なのだが決して硬い内容ばかりではなく、留学生として、また教員や外交官としてドイツでの豊富な在留経験を持つ著者が、ドイツ人の生活習慣から日本人とは異なる身体的特徴(なんと肉食が多いので歯の咬み合わせまで日本人と違うのだそうだ)まで様々の事に言及している。 特に働き方の違いが印象に残った。 ドイツでは基本は職住接近で、しかも幹部クラス以外は殆ど残業をしないので、仕事が終わったら家族と過ごす時間が日本人に比べて格段に多いのだそうだ。 ってことは、仕事にかこつけて遅くもなれないし、帰りにちょっと一杯も出来ないってことのようで、それって案外しんどい事もあるんじゃないかと私なんかは思ってしまうがどうだろう。 でも、こういった背景を知っていると、ドイツの映画や小説を見たり読んだりした時にまた違った見方が出来そうだ。 蝉しぐれ 藤沢周平 電子書籍 93点 かなり前にネット書店で購入した本書を、台風の日の電車の待ち時間に読んでみた。 テレビの時代劇は好きなのに時代小説というのは殆ど読んだことがなく、藤沢周平作品も今回が初読。 司馬遼太郎より藤沢周平が好きという友人がいたけれど、周知のとおり、ここ数年藤沢作品というのは毎年のように映画化されていることから推しても、その人気の高さが窺い知れるが、いまさら言うのもなんだけれど、噂に違わぬ面白さだった。 とにかく時代劇のお約束(跡目争い、果し合い、老中の奸計、斬り合いなどなど)が定石どおりにきっちり書き込まれているにも関らず、けっして水戸黄門的やすっぽさに堕すことなく、しっかり登場人物たちの人となりが描かれているだけでなく、一人の少年が青年へと成長するビルディングロマンとしても読み応えがあり、それぞれのシーンが目に浮かんだ。 淡い恋心を抱いた幼馴染との、切なくちょっぴり官能的な別れを描いたラストシーンには、打って変わった大人の哀切感が漂い胸を打たれる。 真夜中の太陽 米原万理 電子書籍 75点 「真昼の星空」の続編ともいえるようなコラム集。 豊富な知識と経験を踏まえた上に、ウィットとユーモアに富んだ米原さんの文章にはいつも楽しませていただいているが、この本に関してはいつものようなユーモアもあまり感じられず、次々繰り出される日本批判にごもっともと思いながらもかなり疲れを感じてしまった。 「真昼・・」の続編的なつくりにしているのは単に出版社の意向で、「真昼・・」が読売新聞日曜版に連載されたエッセイ集なのに対して、こちらは主に「ミセス」と「婦人公論」に掲載されたもの。 奥様相手ではいつもの下ネタも書きにくいかったかもしれないし、日本の現状に対する忸怩たる思いが爆発してしまったのかもしれない、とは思うものの・・。 文盲 アゴタ・クルストフ 92点 あの世界的ベストセラー「悪童日記」三部作の著者アゴタクリストフの自伝。 100ページ足らずなので数時間で読めるような小品だが、内容は重い。 ご存知の方も多いと思うけれど、アゴタ・クルストフはハンガリーからスイスに亡命し、そこで難民として暮らす傍ら、フランス語で処女小説の「悪童日記」を書いた。 この本にはその経緯の一部始終が書かれている上、ハンガリー人である著者が自らが選んだわけでもなく、いまだに習熟できない故に「敵語」とも思っているフランス語で書く事への思いなどが率直に語られている。 現在クリストフは、自分が書きたい事はすべて書いてしまったと言っているのだそうだ。 クリストフファンとしては残念ではあるが、仕方ない事なのかもしれない。 ガラティア2・2 リシャード・パワーズ 90点 「舞踏会に向かう3人の農夫」を読んでびっくるさせられたリチャード・パワーズが1995年に書いた5冊目の作品。 今回の主人公は当のパワーズの分身ともいえる作家のリチャード・パワーズと人工知能の「ヘレン」。 人工知能に言葉を習得させる過程に、過去の恋愛やそれまでの作品が出来る経緯などの自伝的な要素を絡めた、相変わらず重層的な物語。 パワーズ自身、元々物理学を専攻していたというだけあって、化学的な描写にリアリティがあると同時にファンタジックな要素もあり、作中のパワーズによって言葉を教えられ成長していくヘレンに、思わず感情移入してしまう。 さらにこの小説は、いろいろな角度から「ことば」そのものを考察している話でもある。 人工知能をテーマにしていながらも実体験が盛り込まれているせいか、シニカルな描写の多かった「舞踏会・・」よりもずっと感傷的に感じられた。 パワーズはすでに10冊の本を出版しているが、翻訳が困難なせいなのかはたまた出版しても売れないのか、日本では現時点で4冊しか翻訳されていない。 出版社様お願い、高くても買うからもっとパワーズの本を出して! ※下記の広告はExciteの営業活動の一環として掲載されるもので、主催者が載せているものではありません 2011年 10月 01日
![]() 2010年のベルリン国際映画際で、監督に与えられる銀獅子賞を受賞したのが大御所のロマン・ポランスキーが撮ったこの映画。 主人公のゴーストライターを演じたのは、「ブローン・アパート」でジャーナリストを演じていたイギリスの俳優ユアン・マクレガー、そして元首相のアダム・ラングを、「007」でおなじみ(現在はベテラン演技派俳優として、いろいろな映画に出演中)のビアーズ・ブロスナンが演じている。 (以下あらすじ。少々ネタバレ) 続きを読む
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