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2010年 02月 19日
私にとって、つい最近まで極北文学の大家を一人を挙げよと言われれば、それは間違いなくジェームズ・エルロイだったのだけれど、数年前コーマック・マッカーシーを知るに及び、私の中でのエルロイの地位が些か揺るぎが始め、さらに今回のこの小説を読むに至って、その地位は完全にマッカーシーに譲られる事となった。マッカーシーの代表作とされるこの「ブラッド・メリディアン」は、<過去25年間で最も優れたアメリカ小説は?>という、2006年にニューヨークタイムズ紙が行ったアンケート(作家、評論家など文学関係者が対象)でも3位に選ばれるほどアメリカ文学界にとっては重要な小説なのだが、日本では何故かこの後に書かれた「すべての美しい馬」「越境」「平原の町」といった国境3部作や、アカデミー賞を受賞した「ノーカントリー」の原作である「血と暴力の国」、それからピューリッツァー賞を受賞した「ザ・ロード」が先に翻訳されてしまい、ファンとしては(僭越ながら私のような日の浅いファンでさえも)待ちに待った今回の出版だったのだ。 続きを読む Tags:アメリカの小説 コーマック・マッカーシー 2009年 10月 13日
![]() ![]() 映画「ブーリン家の姉妹」の原作本。 デイヴ・スペクターによると、アメリカでは、ヘンリー8世は数多いる歴史上の人物の中でも、1、2を争うほど人気があるそうなのだが、そのヘンリー8世が中心人物となっている小説「ブーリン家の姉妹」は、アメリカでは、本国イギリス70万部を遥かに上回る、200万部を売り上げるベストセラーになり、以前このブログでも取り上げたように、アン役にナタリー・ポートマン、メアリー役にはスカーレット・ヨハンソンという、二人のアメリカの人気女優を起用して映画化された。 ヘンリー8世は次々と6人の妻を娶ったことで有名な王様だが、この小説に登場するアン・ブーリンは、その2番目の妻にあたる。 映画を見た後で原作を読むと、読んでいる間その役を演じた俳優の顔が浮かんでしまうものだが、今に伝えられるブーリン姉妹の肖像画を見る限り、二人の外見は演じた女優たちとは全く似ていない。 特に、アン・ブーリンは、当時の基準に照らしても、お世辞にも美人とはいえない容貌だったらしい。 それでも最初に寵を得てから約7年、アンはヘンリー8世の心をつなぎとめ、とうとう前妻のキャサリン王妃を押しのけ、后の座に就く。 この本にはその間の出来事が微に入り細に亘り、作者のフィクションも交え書き連ねてある。 フィクションの部分にはアンの外見に関することも含まれているようで、本文中では、アンの華やかな美しさは、王以外にも宮廷の男性の羨望の的と描写されているのだが・・。 続きを読む 2009年 08月 22日
しばらく前、絶版になった本を復刊して欲しい時に投票する「復刊ドットコム」に、コーマック・マッカーシーの「越境」を復刊して欲しくて投票およびコメントしておいたら、昨日、9月中旬に復刊されるというメールが来た。きゃー、良かった。 予定価格は1050円となっているので、たぶん文庫での復刊だろう。 でも、得票数はたったの14票。 「復刊ドットコム」の得票数と本の復刊はどのような関係にあるんだろうか。 かなりの得票にも拘らず、なかなか復刊されない本もあれば、今回のようにわずかな得票数でも復刊されてしまう本もある。 もっともこの「越境」という本はマッカーシーの国境3部作という作品群の第二作で、一作目の「すべての美しい馬」が数年前に文庫化されているので、その流れで復刊が決まったのかもしれないが・・。 マッカーシーの小説を読んだのは2年ほど前、その「すべての美しい馬」が最初だった。(この小説の感想文はこちらに書きました) その後コーエン兄弟の手で「No Country For Old Men」という作品が映画化されると知り、読もうと思ったら邦題が「血と暴力の国」だった。 なんだかあまりにも血腥いイメージだったのでしばらく躊躇していたのだけれど、ちょうどその頃、マッカーシーの最新作でピューリッツァー賞を受賞した「The Road」が、ヴィゴ・モーテンセン主演で映画化されるという話が流れ、更に「No Country ~」がアカデミー賞にノミネートされるに及んで、やっぱり読まなくちゃと思って読んだら凄く良かった。(この小説の感想はこちら) 続きを読む 2009年 05月 17日
前からいつか読もうと思っていたこの小説。BookOffの100円コーナーで第一巻を見つけたので思わず買っちゃって裏表紙をみたら、全5巻なんて書いてあってびっくり仰天。 仕方がないから残りは全部図書館で借りちゃった。 いやあ、長かったあああ!!! 原稿用紙3500枚以上の超大作。 でも、天下の宮部みゆきに対してこんなこと言うのもなんだけど、推理小説でこの長さって、いくらなんでもちょっと長すぎじゃない。 「カラマーゾフの兄弟」や「指輪物語」じゃないんだからさあ。 解説の佳多山大地氏によるとこの本、「出版されるや空前絶後の反響を呼び起こし、毎日出版文化賞特別賞や、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。すでにエンターテイメント系の文芸賞を総なめにしてきた著者の最高傑作といってよい」なんて書いてある。 2002年度の「このミステリーがすごい」のランキングでも、堂々の第1位。 ところが、私は普段は大長編を読むのはあんまり苦にならない人間なのに、この小説はきつかった。 なんだかうんざりしてもう読みたくないと思う箇所が何箇所もあって、でも基本的に本は読み始めたら最後まで読むようにしているので読み続けたけれど、途中で耐えられなくなって、とうとう最後を先に読んじゃった。 推理小説でこれをやっちゃあお終いだけど、この小説、手法としては最後まで犯人がわからないのではなくて、途中でわかってそれを司直がいかに追い詰めていくかという内容だから、最後を読んじゃっても大して支障はなかったように思った。 もっとも「模倣犯」という題名の由来は、ラストを読むまでわからない、という仕掛けにはなってはいるのだが・・・。 続きを読む 2009年 02月 28日
桐野夏生の小説は今までに「OUT」と「グロテスク」を読んでいたので、この本で3冊目になる。前2冊がミステリー小説だったので、当然これもミステリーだとばかり思って読み始めたのだが、いつまでたっても殺人はおろか事件らしい事件が起きず、3分の1くらい読んで漸く、どうやらこの小説はミステリーではなさそうだと言う事に気付いた。 この小説、定年後数年して心臓麻痺で夫が死んでしまう事に単を発して起こる様々な出来事を、その妻の視点から語っているのだが、この発端になる出来事が20数年前に我が家に起こった事と非常に近く、そういう意味では興味深かった。 といっても、妻が私というわけではなく、私の母にあたるのだが、父が突然心臓の病気で亡くなった事といい、その時の父と母の年齢といい、二人の子供がいた(小説の中では兄妹だけれど、我が家は姉妹)事といい、家の坪数といい、とにかく我が家と非常に近い状況の話だった。 というわけで、葬儀の様子からその後に起こった事など、どうしても我が家で起こった事と比較しながら読んでしまった。 この小説では、夫が蕎麦打ちのサークルのようなところに入っていて、葬儀の後にその仲間のおじさんたちがお焼香に来るのだが、我が家でも父の昔の同僚の方たちが数人で訪ねてくださって、思わずその時の事が頭に浮かんだ。 でも、似ていたのはそこまでで、その後の出来事はまるっきり違った。 続きを読む 2008年 12月 29日
昨日、年度末を飾る競馬の祭典有馬記念が行われ、37年ぶりに牝馬のダイワスカーレットが優勝した。残念ながら私はレースを見られなかったのだけれど、並居る牡馬を尻目に、先行逃げ切りというなんとも頼もしい勝ちっぷりだったようだ。 なんだかこれって、今年のスポーツ界を象徴するような出来事のように思えるんだけど。 確かに、今年は大リーグで岩村が大活躍したり、オリンピックで北島康介が2大会連続金メダルを獲得などの快挙も成し遂げたけれど、結局オリンピックでの金メダル獲得数は女子が男子を上回ったし、ウィンターシーズンに入ってからは、スポーツ界の話題は浅田真央に集中しているように感じられる。 我が家でも、ここのところ一番熱心に観ているスポーツは女子のフィギュアスケートだ。 ところで、私は90年代には競馬中継を良く見ていた。 見始めたきっかけは、そのころ俄か競馬ファンになった大方の人々同様、オグリキャップ人気のせいだ。 あの頃のオグリキャップの人気は、70年代のハイセイコー人気を髣髴とさせる凄い盛り上がりで、それまで全然競馬になんか興味の無かった女の子までをも、ブラウン管の競馬中継、惹いては競馬場へと惹きつけた。 ハイセイコーは引退時に「さらばハイセイコー」なんて歌まで出来たけれど、オグリキャップは縫いぐるみが売り出され、大人気になった。 私が見始めた時、既にオグリは競走馬としての最晩年で、絶好調の頃に比べ精彩を欠き、最後に有馬記念に出走して引退という事が決まった頃だった。 なんだかわけもわからずに競馬中継を観ているうちに、その日はやった来た。 オグリファンは皆オグリを応援していたようだったけれど、その前の状態から、今回の優勝は無理だろうという声も多かった中でのレースだった。でも、オグリは勝った。 その時、一番最初にゴール板を駆け抜けたオグリの走りに、競馬のことなんか何もわからない俄か競馬ファンの私でさえも、胸が熱くなった。 そして翌年、今度は故障のため約1年ぶりに、こちらも引退レースとして有馬記念を選んだトウカイテイオーが人気のビワハヤヒデを抑えて優勝した。 この時も感動した。 2年続けて引退を掛けて走った有馬記念で、有終の美を飾った2頭のスターホース。 競馬といったらおじさんの賭け事と思っていたけれど、この2回のレースで、競馬の競技としての面白さと、なにより懸命に走る馬の姿の健気さに心が動いた。 というわけで、それ以来、日曜日ごとに競馬中継を見るようになった。 とはいっても、まわりに競馬に詳しい人がいたわけでもなく、その頃流行った「なんちゃって女子高生」みたいな、「なんちゃって競馬ファン」に過ぎない程度ではあったのだが。 続きを読む 2008年 11月 29日
最近書店に行くと、必ずあるのがランキングのコーナー。
近頃それを頼りに本を読む人が存外多いらしいのだが、私にはそういった習慣はあまりない。 話題の本を読む時は、大抵は友達が面白いから読めといって貸してくれるから読んでみる、といった程度なのだが、それでも年に一回必ずチェックする本のランキングのジャンルがある。 年末に出る宝島社の、「このミステリーが凄い」の、海外ミステリーのランキングだ。 もちろん、せっかく買ったのだから国内ミステリーのランキングにも目を通すし、日本人作家のミステリーも時々は読むのだけれど、基本的には海外のミステリーの方が圧倒的に好きなのだ。 なんで、と聞かれても明確な理由は挙げられないが、しいて言えば、目に浮かぶのが普段見慣れた風景とあっては、面白みに欠ける、といった感じかなあ。 なにしろ映画も外国映画を観るのが好きなので、本もそのような情景を目に浮かべながら読むのが好き、なんだと思う。 ランキングを目安に本を読む人は、数多く出版される本の中で、何を読んだら良いかわからないし、皆が面白いと言っている本を買えば間違いないだろう、といった理由でランキングを当てにしているのだろうけど、私が「このミス」のランキングを読むのも、似たような理由からだ。 ただ、私の場合、それ以外の本は、本屋で平積みにされている本のタイトルを読んで、面白そうなのをピックアップする、といった選び方なのだが、ミステリーをそのように選ぶと、どういうわけかさっぱり面白くない本に当たってしまう事がしばしばあるので、どうもランキングに頼りたくなってしまうのだ。 だからと言って、上位の作品を片っ端から読むという訳ではなく、それぞれの書評をじっくり読んで、中で自分の好みに合った作品をピックアップして読むといった方式だ。 そういう方式でしばらくやっていたら、最近では自分の好みの作家が決まってきて、そういう人たちの新作が出たら読むようになったので、以前に比べて「このミス」のランキングに頼る割合もかなり減ってきている。 ブログを始めて最初の頃に、自分でも「スクリーンの中の怪しく美しい男たちベスト10」というランキングをLivedoorBlogのこちらに書いたのだけれど、その後Exblogに引っ越してからも、時々ランキングをやっている。 というわけで、今回は「私の好きな海外ミステリー作家ベスト10」ランキングです。 まずは下位のランクから 続きを読む 2008年 10月 13日
2007年の「このミステリーがすごい」及び「週刊文春ミステリーベスト10」で共に1位に輝いたのがこの作品。もっとも、この本、出版社が文春だからね。 とにかく近所の本屋に行っても今年の初めのランキングではずっと上位に入っていて、読みたいなと思ったけど価格が2000円以上したので、別にとりたててディーバー好きというわけでもないから、図書館で借りようと思っていて忘れてしまった。 でも、先日図書館で何か面白い本はないかと物色していたら、しっかり棚に収まっているのを見つけ、ああそうだったと思い出した。 ディーバーの本は先月「青い虚空」という作品を読んだばかりでちょっと間をあけたい気もしたものの、話題作だからま、いいかと思って借りてみた。 今年の前半には貸し出し中が続いてたんだろうな、きっと。 この小説は「ボーン・コレクター」から始まった、四肢麻痺の捜査官リンカーン・ライムシリーズの7作目にあたる作品で、おなじみのライムの相方で鑑識科員のアメリア・サックスやニューヨーク市警のロン・セリットーなどいつものメンバーが登場する。 といっても、わたしはこのシリーズ「魔術師」しか読んだ事がないのだが・・。 以下にあらすじ及び感想を書きますが、かなりネタばれですのでご注意を。 続きを読む 2008年 09月 06日
読むのが前後してしまったけれど、これはマッカーシーの「国境三部作」といわれる作品の2作目で、先日読んだ「平原の町」はこの続編にあたる。これでコーマック・マッカーシーの日本で出版されている本5冊、総て読了した。といっても、この本は既に絶版になっているので、図書館で借りたのだが。 2作目であるにも拘らず、本作の時代は1作目の「総ての美しい馬」より10年ほど遡った1940年から44年、話はニューメキシコから始まり、国境を越えメキシコに移る。 主人公は「美しい馬」のジョン・グレイディと同年代、16歳のビリーという少年だが、このビリーとジョン・グレイディが3作目の「平原の町」で出会い、やがて物語が完結する。 時代が10年ほど違うので、出会った時の二人の年齢はビリーのほうが10歳ほど年長になる。 この小説も「美しい馬」同様のロード・ノベルなのだが、「美しい馬」以降マッカーシーが執筆した作品は「血と暴力の国」にせよ「ザ・ロード」にせよロード・ノベルの形をとっており、唯一「平原の町」のみ、多少体裁が異なる。 コーマック・マッカーシーは、自身が最も好きな小説にメルヴィルの「白鯨」を挙げているし、物語のはじめの3分の1ほどに語られるビリーと野生の牝狼との交流を描くエピソードは、批評家からはフォークナーの「熊」に匹敵すると言われているようなのだが、私がこの小説を読んだ時にすぐに頭に浮かんだのは、子供の頃繰り返し読んだ「シートン動物記」とジャック・ロンドンの小説だ。 例を挙げると、ビリーは牝狼を捕らえるためあちこちに罠を仕掛けるのだが、頭のいい狼がそのバネをことごとくはじき仕掛けた餌だけを持っていってしまうという逸話は、同様の話が「シートン動物記」にも記されているし、捕らえられた狼が闘犬として戦わされるシーンは、全くジャック・ロンドンの小説を思わせるのだ。 これらの小説には共通して自然に対する畏敬の念や、人間と動物との共生といったテーマが掲げられるているのだが、同時に人間がいかに自然に対峙する存在であるかも如実に浮かび上がらせている。 さらにマッカーシーの小説世界では、人間の悪行は時代を経るごとに、しだいに悪化していく。 句点と会話のクォーテーションマークをはずした独特のスタイルと、いつものように極力心理描写抑え、状況と会話のみで淡々と綴られる物語で、作者は16歳の少年にほとんど極限までの苛酷な試練を与え続ける。 以下あらずじなので、ネタばれになります。 続きを読む Tags:アメリカの小説 コーマック・マッカーシー 2008年 06月 24日
ここ数日間、頭がすっかりヴィゴ・モーテンセンモードだ。何故かと言ったら先日来書いているように、2年ぶりのヴィゴの主演映画「イースタン・プロミス」が今月14日に公開になり、それに続いて全米で今年11月公開予定のこれまたヴィゴの主演映画「ザ・ロード」の原作本が18日に発売され、読んでみるとその主人公のイメージがあまりにもヴィゴにぴったりで、もう頭の中がヴィゴだらけになってしまったのだ。 「ザ・ロード」は今年のアカデミー賞4部門を獲得した「ノーカントリー」の原作者コーマック・マッカーシーが2006年に発表し、2007年ピューリッツァー賞を受賞した小説だ。 というわけで、今回はこの小説について。 続きを読む Tags:アメリカの小説 コーマック・マッカーシー
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